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札幌家庭裁判所岩見沢支部 昭和44年(少ハ)7号 決定

本人 T・R(昭二四・三一・一四生)

主文

在院者の収容を昭和四四年一〇月一六日まで継続する。

理由

一  本件の申請の理由は、「在院者は昭和四三年九月一七日札幌家庭裁判所岩見沢支部の送致決定により、同年九月二〇日から北海少年院に収容中のものであるが、入院以来将来の目標を理容師受験におき、同小年院理容科(理容学校として国の指定を受けており、ここで一ヵ年実習すれば理容師の国家試験の受験資格が得られる)で訓練を受けてきたところ、昭和四四年九月一六日に少年院法一一条一項により満期退院することになれば、未だ一ヵ年の実習経験を持つに至つていないため上記国家試験の受験資格がえられないこととなる。少年の希望を考えると、上記実習期間を終えさせて、退院後の更生への一助としてやりたい」というのである。

二  在院者にかかる社会記録および審判での同人および上記少年院教官の供述によれば、在院者が上記の経緯で同少年院に入院し、理容師になるべく実習訓練を重ねていること。同少年院理容科は厚生大臣の指定した理容師養成施設であつて、理容師法二条同施行規則九条により一年以上理容師たるに必要な知識および技能を修得した後一年以上実地習練を経れば道知事が行なう理容師試験を受験することができることと。在院者が上記のとおり満期退院ということになると、上記一年の知識技能修得の課程終了に一ヵ月不足することとなり、これまでの在院者の努力が水泡に帰してしまうこと(他理容学校への転校は不可能であると認められる)。在院者にとつて理容師は知的体力的な面から適職であつて、本人もそのことを自覚し、現在では実習にも熱意をもつて打ち込み、技術もかなり向上していること。在院者の非行の原因は、我儘な性格のため生活が怠惰に流れ、他方対人関係もうまくいかず、社会に適応する力を欠いていることにあつたと認められるのであるが、この点集団生活での訓練でかなりの成長を遂げており、また理容師という目標をえて緊張した生活を送つているのであるが、この目標が挫折した場合や職業生活がうまくいかない場合には再び怠惰な生活に流れる危険が大きいことなどの事実が認められる。

三  そうすれば、在院者に上記受験資格を付与する第一歩となる一年間の課程を終えることなく同人を社会へ復帰させることは、同人に目標を失わせるに等しく、同人を混乱の中におくだけであり、少年院での矯正教育は全くその実をあげえない結果になるのであつて、このような場合は少年院法一一条二項にいう(在院者の)犯罪的傾向がまだ矯正されていないため少年院から退院させるに不適当な場合に該るものというべきである。

四  そこで、同法同条四項の規定を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 永山忠彦)

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